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自己中心思考の転換

 

Part 3  ニート・ひきこもりの就労と家庭教師

 

自らの良心の声に従って

 ところが、社員であれ、アルバイトであれ、組織の一員ともなればそうはいかないだろう。建前はともかく、お客様よりも上司のほうが気になるだろう。お客様は会社におカネを払ってくれるかも知れないが、自分に給料をくれるのは会社なのである。しかも、会社と顧客の利害はしばしば対立する。それもそのはずで、会社はなるべく高く売りたいし、お客様はできるだけ安く買いたいのが当たり前だからだ。会社と顧客の利害が相反する場合、組織の一員としては、お客様は怒らせないようにしながらも、あくまで会社の利益を守り抜くように求められるだろう。

 ここで冒頭の話題につながる。はじめに引用した大手証券会社の「地獄の研修」のようなものがなぜあるかと言えば、ネット証券以前の証券会社は「回転売買させて手数料収入を得る」というビジネスモデルで成り立っていたからだ。そのような収益構造の下では、仮に営業マンに人間らしい感情があって、顧客に損をさせたからといっていちいち同情していては商売にならない。顧客が損をしたと見るや「損を取り返しましょう」と言い寄り、平然と別の銘柄を奨めるような神経の持主でなくてはならないのだ。そのためには、これまでの人生で培ってきたモラルや良心といったものをいったんリセットし、白紙に戻す必要があるだろう。その証券会社は、まさに文字通りの「暴力」によって社員の人としての尊厳を打ち砕き、モラルや良心の感覚を麻痺させることによってこれを実行したのである。

 しかしながら、「自営」であれば、そんな暴力とは無縁だ。お客様とのトラブルはあるかも知れないが、自らの良心の声に従って処理すれば大きな過ちにはならないだろう。

 

 

狙い目は「物販」

 とはいえ、「自営」といってもお店があるわけでもないし・・・と思われるかも知れない。けれども、店舗は必ずしも要らない。いや、余計な費用がかさむ店舗などは、ないほうがよいくらいだ。

 何はなくとも、とりあえず始められるのがインターネット・ビジネスである。

インターネット・ビジネスと聞いて誰もがすぐ思いつくのはアフィリエイトだろう。

けれども、アフィリエイトのような「楽して儲かる」系のビジネスで収益を上げることは正直言って厳しい。第一、アフィリエイトではパソコンでサイトのリンクを貼ることばかりが仕事になって、お客様との接触がゼロになってしまう。これでは社会性も身に付かないし、仕事としてのやりがいは感じられないだろう。先に述べたように、お客様とじかに接して(実際に会わなくても、電話やメールのやりとりによって) 直接お客様の声が聞けるというのが、自営でビジネスをする醍醐味なのだから。

 おそらく、インターネット・ビジネスでの狙い目は「物販」だろうと思われる。ネットショップやモールで手作りの品物を売るというのが最近の流行になっている。これなら家族の人などがまず始めて、途中からニートやひきこもりの子どもを巻き込んですることもできるかも知れない。「パソコンの操作や設定がわからない」とか、「品物の写真を撮るのを手伝ってほしい」とか、巻き込み方はいろいろ考えられる。そのうちお客様からのメールに返信させたり、「売れる商品」についてアイディアを出せるようになると、本人に自信がつき、社会性も向上することが期待できる。

 

「家庭教師」はハードルが低い

 また、インターネット・ビジネスとは言えないが、意外な盲点とも言うべき仕事が「家庭教師」である。

家庭教師を始めるには、元手のようなものはほとんど何も要らない。その上、どんな家庭にいっても一応「先生」として丁重に扱われるので、人間関係に悩まされることも少ない。広告宣伝の方法が問題になるかも知れないが、街の掲示板のようなものでもそれなりの効果がある。

 もちろん、家庭教師などと言うと、「勉強は苦手だから」と思われる人も多いだろう。また、東大など一流大学の学生と競争しても勝ち目がないと思われるかも知れない。けれども、一流大学の出身でなくとも家庭教師はできるし、別に東大生と競争する必要はない。「登校拒否の生徒専門」などとして差別化すれば、きっと需要はある。そのようなマーケットでは東大生のような「いかにもエリート的な家庭教師」はかえって嫌われる可能性もあるくらいだ。

 勉強については、優等生的にできる必要はない。「受験ではなく、登校拒否の小中学生の補習専門」と割り切れば何とかなる。かえって苦手意識があったほうが生徒の気持ちがわかるので強みになると言っていいくらいである。

 

 

とはいえ、まったく忘れてしまっていては教えられないので、いくつかテキストを読んでおくといいだろう。しょせんは小中学生のレベルなので、資格試験の勉強などよりは、よほど簡単なはずだ。[テキスト・参考書・教材はこちらを参照]

 教える科目としては、算数・数学と理科などの理系科目が意外と狙い目である。理系科目を教えられる家庭教師は少ないからだ。というのは、アルバイトで家庭教師をしている大学生は文系学生が中心で、高校で数学や理科などろくにやっていないし、家庭教師のためにわざわざ勉強したりもしない。一方、理系の学生の多くは研究室で実験などをやらされるので忙しく、家庭教師などしているヒマのある学生は少ないからだ。つまり、子どもの苦手科目は算数なのに、ちゃんと教えられる教師は少ない。従って、算数や理科が教えられるというだけでも差別化ができ、仕事のチャンスが増える。

もちろん、「算数・数学は特に苦手だった」という人も多いとは思うが、本気で取り組めば意外と易しいものである。「受験ではなく、登校拒否の小中学生の補習専門」であるから、難問・奇問の類は無視してよい。

 

「経営者感覚」をつかむ

 もちろん、インターネット・ビジネスにしても、家庭教師にしても、それほど大きな収入になるとは期待できないかも知れない。けれども、まず一歩を踏み出すことの意味は大きい。

ただし、ここで大切なことは、アルバイト感覚ではなく「自営業」として真剣に取り組むことである。「自営」とは、文字通り「自分が経営者」であるということだ。アルバイト感覚で仕事をしていると、一定時間拘束されているだけで自分にはおカネをもらう権利があるような気がしてくる。しかし、「経営者感覚」ではそうはならない。経営者の収入は、いかに多くのお客様に満足してもらえるかにかかっているからだ。

この感覚がつかめれば、世の中の見方が変わってくるはずだ。それまでは自分本位で物事を考えていたとしても、やがて考え方が少しずつ他人本位になっていく。そうなれば、回りの目もだんだん暖かくなる。

この変化を感じとることができれば、たとえ「異常な社会」にあっても、ひるむことなく、自らの良心を支えとして、収入を得ながら生きて行く自信をつかむきっかけとなるに違いない。

                                                 1. 誰もニートやひきこもりを非難できない 

2. ニート、ひきこもりの就労と自営ビジネス 

                                                 3. ニート、ひきこもりの就労と家庭教師