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『金持ち父さん』を読み返す (1)

日本で「不動産投資」は可能か?

 

 

われわれは『金持ち父さん』を読み間違えたのだろうか

 ロバート・キヨサキ著『金持ち父さん、貧乏父さん』は、言わずと知れた化け物的なビジネス書だ。日本のサラリーマン層に不動産投資ブームを巻き起こしたという意味で一時代を画し、その後年数を経てもなお売れ続けている。

 同書が提示しているおカネに対する考え方は、当時としては新鮮かつ衝撃的なものであったし、実際、これに触発されて不動産投資を始めた人たちもいるらしい。

だが、現実はそう甘いものではない。実際、不動産投資を始めてはみたものの思ったような収益が上がらずローン地獄に陥ってしまったという話を聞くことも少なくはない。

いったい、われわれは『金持ち父さん』のどこを読み間違えたのだろうか。あるいは、まるで場違いのものを読んでしまったのだろうか。

 

 

日米の不動産業界の違い

 日本とアメリカでは事情が異なるのだから、『金持ち父さん』の主張を鵜呑みにすることはできない、とはよく言われていることである。その例としてよく挙げられるのが、日本にはアメリカのような不動産オーナーに対する優遇税制はないということだ。

しかし、問題は単に税制上のことではない。日米の不動産事情は、容易には想像し難いほどに異なると言ってよいからだ。

 根本的な違いの一つが不動産業界のシステムである。ここで詳細を述べる余裕はないが、日本では不動産業者が不動産の売主と買主の双方を代理し、そのどちらからも利益を得ようとする不透明なシステムになっている。これに対して、アメリカでは不動産の売主には売主側の業者が付いて売主の利益のために働き、買主には買主側の業者が付いて買主の利益のために働くようになっている。

日本のような双方代理では、結果的に、売主と買主のどちらの側に対しても誠意ある対応は期待できないものとなる。要するに「業者本位」の都合のいいシステムになっているのだ。

 

住宅は「資産」か、「耐久消費財」か

 さらに大きな違いは、アメリカで「不動産」と言えば「住宅」であるのに、日本で「不動産」と言えば「土地」が中心であるということだ。アメリカは言わば「住宅中心」であるわけだが、これは、サブプライム・ローンによる住宅バブル崩壊の後も基本的に変わっていない。

日本と異なり、アメリカでは「住宅バブル」は起きても「土地バブル」は起きそうにないのだ。

対照的に、日本の住宅は一種の耐久消費財とみなされている。あたかも新車より中古車の価格が安いのと同様に、中古住宅は新築時よりも値下がりして当然だと思われている。まさしく「新築は買った瞬間に中古になり、値が下がる」というわけだ。

 

 

アメリカには「ノン・リコース・ローン」がある

 これに呼応するように、不動産に対する銀行融資のスタイルも日米では違っている。

アメリカでは、ノン・リコース・ローンという融資形態が普及している。「ノン・リコース」とは「不遡及」ということであり、借り手がローン返済不能に陥ったとしても、担保にした不動産を差し出せば、それ以上の債務を負担しなくてもよいという制度である。

このノン・リコース・ローンを利用できるとすれば、借り手のリスクは相当に軽減されるはずだ。

けれども、日本では、残念ながらノン・リコース・ローンで融資を受けたという話を聞くことはめったにない。

なぜなら、日本の住宅は築年数によって減価し、担保価値も失われていく。借り手がローンを払えないからといって価値の下がった物件を差し出されても、銀行としても困ってしまうからである。

 

「耐久性のある建物など建てても仕方がない」

 それでは、日本でも、築年数を経ても価値の下がらないような優良物件を建築し流通させることはできないのだろうか。ところが、日本では、法定耐用年数なるものが定められており、これを過ぎた建物は、売りたくても買い手が付かないおそれがある。銀行が融資してくれないからだ。

だから日本では、法定耐用年数を過ぎた建物は、壊して新築にしてしまったほうがいいし、「耐久性のある建物などを建てても仕方がない」という発想になりがちだ。そのあげく、建物に耐久性がないから価値が下がる、という悪循環に陥るのが日本の現実なのである。

 このような環境で「不動産投資」をする、というのは、なかなか辛いものがあるのではないだろうか。

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