飛行機のリスク=投信のリスク?

 また、ごく最近(2005)のことですが、銀行・証券会社などのセールスマン向けのある雑誌に「投資信託の販売」についての特集があり、そこに「顧客に対する効果的なリスク説明」の例として、次のようなものが推奨されていました。

 「飛行機には落ちるリスクがあります。でも、お客様も海外旅行のために飛行機に乗って出かけられるのではないですか・・・」

 この説明の恐ろしいところは、一瞬、なるほど、と納得させられたような気になるところです。しかし、どこかヘンではないでしょうか。冷静になって考えてみて下さい。

つまり、よくよく考えてみれば、「飛行機が落ちるリスク」と「投資信託が値を下げるリスク」とは、リスクの性質が全然違うことに気が付くはずです。従って、投資信託のリスクを説明するのに、「飛行機が落ちるリスク」を引き合いに出すの不適当なのです。否、不適当どころか、同じ「リスク」という言葉を用いて顧客を煙に巻く行為に他ならないでしょう。

 確かに、飛行機は落ちることがあります。しかし、その可能性が極めて低いことは誰でも知っています。つまり、「自分が乗る飛行機が落ちるかも知れない」と予期しながら海外旅行に出かける人などいません。「飛行機は落ちることがあるが、その可能性は無視できるほど小さい」と思うからこそ、人は飛行機に乗るのです。

 

飛行機に乗ることの「責任」(!?)

 さらに、これも当たり前のことですが、万一、飛行機が落ちたとしても、それは乗客の「自己責任」ではありません。不幸にして事故に遭った人たちに、「落ちるかも知れない飛行機に乗った乗客の自己責任です」などと言う輩がいたら、そいつは人間ではありません。また、航空券の裏側に「飛行機は落ちることがあります。搭乗はお客様の自己責任で」などと書いてあったら(書いてあるわけがない)「悪い冗談」にもならないでしょう。

 翻って、投資信託のリスクをみてみると、日経新聞の日曜版に毎週、純資産価額の大きい代表的な投信70本の運用成績が掲載されていますが、20061月の時点でおよそ20本が当初の基準価格である1万円を割り込んでいます。分配落ちを考慮すればそのすべてが「元本割れ」とは簡単に言えませんが、かなりの数のファンドが運用に失敗していることになります。別の資料では「2005年末の時点で、投資信託のおよそ3分の1は元本割れである」とされています。しかも、この結果は2005年秋からの上昇相場を経た後のことなのですから、事態はかなり深刻だといえます。すなわち、投資信託が運用に失敗するリスクは、飛行機事故が起きるリスクとは比較にならないほど高いのです。

 従って、投資信託のリスクを「航空機事故のリスク」に喩えることは、同じ「リスク」という言葉を使いながら、「きわめて大きな可能性」を「無視できるほど小さな可能性」に巧みにすり替えるというトリックなのです。このようなセールストークを用いる金融機関の営業マンは(そしてこれを許容する金融機関そのものも)、言葉巧みな詐術を用いていると言われても仕方ないでしょう。

 

「年金不安」をあおるセールストークの謎

 また、最近よく聞かれる勧誘の切り口に「年金破綻による老後の不安」というものがあります。

 公的年金破綻の可能性は無視できないかも知れません。日本の預金金利が限りなくゼロに近いのも確かです。けれども、だからと言って投資信託を勧めるのは、日本の投資信託の約3分の1が元本割れしているという事実を知ってのことでしょうか。しかも、金融知識のない顧客に向かって、これまで着実にリターンを稼いできた投信ではなく、新規に設定された、海のものとも山のものとも知れない商品を勧めるのは、いかがなものでしょうか。

私見ですが、以上のようなセールストークを雑誌で推奨しているのが、ある地方銀行の営業幹部だというところに、日本の「銀行」など金融機関が投資信託という商品をどう捉えているかが集約されていると感じます。もし、今まで投資信託をセールスマンの言うままに買って来られたという方であれば、私どもの意見に賛同して下さる方は決して少なくないはずです。

 

「手数料のかたまり」

結論を言えば、「日本の投資信託」は、投資家の資産形成のためというよりは、金融機関の手数料稼ぎのために設計された「おいしい商品」であるという性質が色濃い、ということです。ある経済学者は、これを「手数料のかたまり」と呼んでいるほどです。まあ、手数料が多少かかっても、それを上回るリターンが得られるなら良いのですが、金融機関の関心が「運用」よりも「販売」に向いている限り、多くは期待できないというのが現状でしょう。実際、日本国内で販売されている株式投資信託の販売手数料はおよそ3%と高額で、しかも販売会社は投信を売ったとたんに(つまり、「運用が始まる前」に、「運用の成功失敗にかかわりなく」、ということは基本的に「ノー・リスク」で)、いきなり手数料が稼げます。

 

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