生命保険の本質

「資産」を捨てて「安心」を得る

 

「逆宝くじ」

 昔、ある物理学者の書いたエッセイに、「逆宝くじ」というアイディアが出ていました。

 これは、実際には存在しない宝くじで、価格は無料ですが、現実の宝くじとは逆に、「はずれ」だと300円もらえます。ところが、運悪く「当たり」を引いてしまうと、1億円かそれ以上を支払わなければならないというものです。

その物理学者は、「そんな宝くじがあっても誰も買わない(引かない)だろう」と言っていたと思います。

 「どんなに確率が低くても、損害が甚大なら、人はこれを避けようとする」という人間心理。それが、彼の言いたいことであったのかも知れません。

 

 

「逆宝くじ」は儲かる

 初めて読んだ当時は、そんなものかなと思ったのですが、心の片隅にどうも引っ掛かるものがありました。そのせいか、なかなか忘れられず、ずっと後になって考え直してみると、意外なことに気付いたのです。

それは、実は、この「逆宝くじ」が「絶対にお得だ」ということです。

 「1億円以上も損するかも知れない宝くじ」なんて、どこが「お得」なのか、と思われるかも知れません。

原理は単純です。この「逆宝くじ」は無料ですから、全部買い占めてしまえばいいのです。

そうすれば、はずれ1枚につき300円もらえますから、たまに「当たり」があっても、膨大な「はずれ」から支払えば必ずおつりが出るはずです。当たりとはずれの割合が、現在日本で普通に売られている宝くじとほぼ同様だとすれば、およそ50%が自分の懐に入る計算になります。

これが莫大な利益であることは間違いありません。

 

生命保険は「逆宝くじ」である

 これは、やや奇妙な感覚ですが、ちょうど「宝くじ」の世界を逆から、すなわち「販売業者」の立場から眺めたイメージにぴったりと重なります。宝くじの業者は「はずれ」で儲かり、「当たり」で損をします。「はずれ」1枚の儲けはわずかですが、枚数が膨大ですから合計すると莫大な金額となります。そこに、高額の「当たり」が多少混じっていたとしても、必ず儲かるようになっているのが、胴元から見たギャンブルの世界なのです。

 話は変わりますが、実は、「生命保険」が、まさに「逆宝くじ」を地で行くビジネスであるということにお気付きでしょうか。

しかも、「どんなに確率が低くても、被害が甚大なら、人はこれを避けようとする」という人間心理を巧みに利用しています。

つまり、「死」という「逆宝くじ」の「当たり」を引いてしまうという、確率は低いが誰にでもあり得ることからくる損失を抑えたいという欲求に応えるのが、「生命保険」であるのです。

 

「宝くじ」と「生命保険」の違い

ところが、宝くじと異なり、普通の人は「生命保険」を「ギャンブルのようなもの」とは認識していません。その理由の一つは、人はみな必ず死ぬからでしょう。けれども、一定期間、例えば1年間というように期間を区切り、さらに死因を天災によらない事故などと限定すれば、これは確率の問題になります。「保険金」という「賭け(掛け)金」を支払い、一定の確率で、これが数百倍、数千倍にもなって戻るのですから、その原理は宝くじという「ギャンブル」と変わるところがないのは明らかです。

しかし明らかに異なるのは、「宝くじ」の場合、これが当たる確率を「誰でも簡単に計算できる」ということです。計算すれば、宝くじが「合理的にみて割りに合わない」ということは明らかですが、それを知った上であえて「楽しみのために買う」という選択は、ある意味で合理的です。何故なら、宝くじで「期待される損失」を「楽しみの対価」と捉えて、納得した上で選択していることになるからです。

 

 

重要なのは「死ぬ確率」

これに対して、仮に自分の命に保険をかけるとして、一定期間に、一定の死因で「自分が死ぬ確率」を知った上で、保険に入るということは、一般的に行なわれているのでしょうか。

当方では保険の業界について詳しくないので知らないだけかも知れませんが、保険のセールスマンが「あなたの年齢、その他の状況から判断して、1年以内に死亡する確率はxxパーセントです」と教えてくれるという話は、寡聞にして聞いたことがありません(保険会社はそういうデータを持っているはずです。でなければビジネスが成り立ちませんから)。保険会社のホームページを見ても、「約1時間に1人が事故で亡くなっています」というような直感的に分かりやすいが、実はほとんど判断の役に立たない(*)ことは書いてありますが、「yy才の人が1年間に事故で亡くなる可能性はzzパーセントです」というような、「本当に参考になる情報」は書いてありません。

(*)こういう数字を左右するのは「死ぬ確率」ではなく、国の人口によって全然違った結果となるはずです。生命保険会社が、どうしてこんなものをサイトに載せているのか理解に苦しみます。

 

「安心の対価」はいくらか?

 経済学的に言えば、「宝くじ」は「ハイリスク・マイナスリターン」であると言われています。「平均的な宝くじの購入者」は、必ず損をしているからです。同様にして、「生命保険の加入者」も平均的には損をしているはずです。宝くじと生命保険が同じ原理に基づいている以上、平均的に得をすることは原理的にあり得ないからです。とは言え、その損失を「安心の対価」であると考えるなら、生命保険にもそれなりの意味があることは否定できません。

しかし問題は、「死ぬ確率がわからなければ、損失=安心の対価がいくらになるのか、結局のところよく分からない」ということでしょう。宝くじが「お金を出してドキドキ感を買う」ように、生命保険が「お金を出して安心を買う」ことにはそれなりの合理性があるとは思いますが、結局のところ、安心を買うためにいくら払っていることになるのかを知らされなくては、合理的な判断を下すことは不可能でしょう。

 

「生命保険」は「資産運用」ではない

さらに問題となるのは、「生命保険」を「資産運用」のように思い込むことです。「資産運用」のつもりで宝くじを買う人もまれにいるようですが、これは絶対にやめた方がいいと断言できます。「宝くじ」と同じ原理に基づく「生命保険」も、同様にして、「資産運用」としては不適格な商品であり、「お金を出して安心を買う」ことに納得できる人以外は買うべきではありません。何故なら、数学的な根拠に基づいて、純粋に損得勘定した場合、生命保険に掛け金(賭け金)を払うよりは自分でファンドや投資信託を買った方が得であるに決まっているからです(手数料の高い「日本の投資信託」でさえそうです)

つまり、「生命保険」を別の言葉で言い換えるなら、「安心を得るために資産形成を犠牲にすること」と言ってもいいでしょう。何故なら、生命保険会社も「機関投資家」として、結局は投資しているのに過ぎないのであり、保険会社の人件費やら広告宣伝費(保険のTVコマーシャルの何と多いことか!!)やら何やらの費用を差し引かれることを考えれば、自分で直接投資した方が効率が良いことは理の当然であるからです。

 誤解のないように申し上げますが、当方では「生命保険」には十分な存在価値があると考えています。しかし、その本質、すなわち、生命保険とは「財産形成を犠牲にして安心を得る」手段であるということを理解し、「それでも欲しい」と納得した上でこれを買うべきであるとも考えています。

さらに、私たちが以上のような前提に立って合理的な判断を下せるように、保険会社には「本当に必要な情報」を提供していただきたいと望んでいます。

 

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